海外リポート 3)

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―海外における掌蹠膿庖症の現況―

イギリス病院巡りの巻

イギリス在住 Y・T・G  女性 39歳

イギリスの旗   私は大学に入学した頃から掌蹠膿庖症に苦しんでいました。約20年にわたり日本のあちこちの病院で検査・治療を受けましたが、これと言った効き目もなく、ほとんど匙をなげられた状態でした。

  約8年前にイギリスに渡り、イギリス人のダンナと出会い、結婚し、腰を落ち着けてロンドンに住むことになりました。そうなると問題になったのが、掌蹠膿庖症の治療をどうするかということでした。

(1)イギリスの医療制度

  ここでイギリスの医療制度について触れておきます。イギリスでは病気の診断・治療のために、いきなり総合病院の外来に一般の人が行くことはありません。大きな総合病院には24時間開いているA&E(Accident&Emergency)という急患外来受付がありますが、基本的に事故に遭った人や救急車で運ばれて来るような重病人のためのものです。

  一般の人は心身に関わらず、身体のどこかの具合が悪くなるとあらかじめ登録してあるGP(General Practitioner)という家庭医に行きます。(歯だけは歯科医に行きます。)あらかじめ電話で予約が必要な所や、直接出向いて受付で順番を待つ所や色々です。診療所も本当に自宅の一室を使っているだけのような「個人医」といった趣の所から、専門の建物に何人ものGPや看護婦・事務スタッフを配した、ちょっとした病院風の所まで色々あります。後者では希望すれば特定の医師に診てもらうこともできます。GPでは診察の後必要ならば処方箋を出してくれます。病気にもよりますが、日本程頻繁に薬を使うことは余りありません。GPが更に必要と判断すれば、近辺の総合病院のそれぞれの専門の科に紹介状を回してくれます。GPでは尿検査や血液検査もできますが、そこで調べる訳ではなく、サンプルがそのまま総合病院に送られてそこでの分析結果が約一週間後にGPに帰って来る仕組みです。レントゲン検査等は総合病院でするので、GPから紹介状を回してもらう必要があります。

  ほとんどの人はGPでも総合病院でも、NHS(National Health Service)という国民保険のもとで診察・治療をしてもらいます。NHSのもとでは、診療費・検査費も患者にはかかりません。文字通りタダです。処方箋だけは、低所得者や子供・高齢者等を除き、薬を実際に薬屋で購入する時にNHS向けの一定の料金を払います。このNHSですが、加入は無料で月々の保険料等も一切かかりません。完全に国の負担です。(国民が色々な形で払う税金が財源になっている訳ですが)。

  さて、もしGPが総合病院に紹介状を回してくれれば、その後患者は総合病院から直接連絡が来るまで待つ訳ですが、NHSの深刻な財源・医師・看護婦・ベッド不足から順番待ちのリストは長く、3?6ヶ月後にやっと専門医に診てもらえればましな方です。もしGPからの紹介の時点で急を要する症状ではないと見なされれば、待つ期間は更に長くなります。やっと専門医に診てもらえたとしても、その医者がレントゲン等の検査や他の医師による診断等も必要と見なせば、またそれぞれの検査や医師のために予約を取らなければならないのです。そういう訳で病気の診断が確定し、治療が始まるまでに、最初にGPに症状を訴えてから数年も経っていた、などということもあります。総合病院での手術の順番待ちのリストも長く、何年も自宅で待たされた挙句、手術の当日になってキャンセルされるということもしょっちゅうです。しかもそれが一回ではなく、何度もキャンセルされたりするのです。こうした長期間の手術待ちの間に亡くなってしまう人も多く、イギリスでは大きな社会問題になっています。

  以上のような不便を避けたい人には、GPに申し出てNHSではなくプライベート(自費診療)として診察・手術・治療を受ける、という道もあります。その場合専門医による診察にしろ入院・手術にしろほとんど待つことはありません。ただし、その都度高額の料金を払わなければなりません。そうした事態に備えて市販のプライベート用の医療保険も存在します。ただ、月々の保険料が高額なのに加え、病気等によってはいざという時になって保険が降りないなどの制約も多く、実際に加入している人はもともとお金に余裕があるような人達ばかり、というのが実情です。全体をプライベート医療専用として、保険会社によって建てられた総合病院もありますが、一部のベッドをプライベート用に開放しているNHSの病院も多くあります。

(2)イギリスでの掌蹠膿庖症の治療体験

  ロンドンに渡ってからも、12年来の掌蹠膿庖症の症状は手足に続いていました。結婚するまでは、母に日本から市販のステロイド軟こうをイギリスまで時々送ってもらってしのいでいたのですが、この地に腰を据えることになった以上、やはりこちらできちんと診てもらってどんな方法にしろイギリスでの治療を受けた方がいいと考えました。ところが、かかりつけのGPに行ってみたところ、驚いたことに日本と違って掌蹠膿庖症は全く知られていませんでした。ある和英医療辞典で「掌蹠膿庖症」で出ていたPalmoplantar Pustulosisを書いた紙を見せて症状を説明したのですが、GPはこんな病気は全く初耳だと言いました。これでもし私の手足が掌蹠膿庖症のひどい時期で症状バリバリ全開(?!)の状態だったならば少しは彼の理解の助けになったのでしょうが、運の悪いことに当時は症状の軽い時期で、水疱がほんのポチポチでした。それでも一生懸命訴えて、どうやらステロイド軟こうの処方箋だけはもらうことができました。ちなみにそれ以来、私の「困った皮膚病」について普通のイギリス人に説明しなければならない時は、湿疹(Eczema)の一種、とだけ言っています。

  さて、これでは埒があかないと思った私は、次に足の裏の症状が少し悪くなった時にわざとステロイドを塗らないで放っておきました。本格的な症状を見せれば医師もこれが治療の考慮に値する、ちゃんとした「病気」なんだということを理解してくれるだろうと期待したのです。思惑通り症状は悪化、足の裏を見ながら同情するGPに、私は当時NHSでの治療が可能だったロンドンにあるホメオパシー(同種療法)の専門病院に紹介状を回してほしいと頼みました。イギリスの健康雑誌で特に皮膚の症状にホメオパシーによる治療が効果を挙げているという記事を読んで、かねがね試してみたいと思っていたのです。

  3ヶ月程の予約待ちがありましたが、そこでの医師の理解の助けとするため、その間も私はわざと症状がひどい状態を保っておきました。ホメオパシー医はやはり掌蹠膿庖症については知りませんでしたが、私のその他の身体の状態も色々問診した上で私の場合全身の新陳代謝もよくしなければならないとの診断を下し、3種類の内服薬(舌の下で溶かす微量の丸薬)を処方しました。あと、カフェインの摂取を避けることを筆頭に細かい食事上の注意を気が重くなってしまうくらい、数限り無く申し渡しました。その病院には何回か通院して薬もきちんと服用し、食べ物もできる限り注意された通りに努力しましたが、掌蹠膿庖症は全く改善の兆しがなく、結局半年程であきらめてしまいました。

  その後、症状はどんどん悪化しました。GPに行った時にホメオパシーの効果がなかったことを伝え、他の「オルタナティブな治療法」(食餌療法・アロマセラピーや指圧・オステオパシー〔骨格療法とでも訳す?〕他、従来の現代西洋医学療法の範囲に入らない療法の総称。日本で言ういわゆる民間療法も含まれます。ホメオパシーもこのグループです。)を試してみたいと頼みました。日本での経験からステロイド一本やりの普通の医療にはうんざりだったのです。GPと相談して、診療所に週一回来るNHSの効くアキュパンクテュアー(鍼)に行きました。ところが、鍼師は私の症状は慢性過ぎて鍼では効果がないだろうと言い、彼の知り合いの漢方医に紹介しようと言いました。私は既に日本で漢方薬を試したことがあり、余り乗り気ではなかったのですが、その漢方医はロンドンの有名なグレート・オーモンド・ストリート小児病院で子供の皮膚病患者に多くの成果を挙げているとのことで、足の症状が余りにもひどくなっていたこともあり、もう一度試みることにしました。

  この漢方医から処方されたのは、内服用の青い錠剤と、煮出して朝夕手と足を浸すための薬草一式でした。医師はこれらが皮膚の症状にとても効果がある薬だと自信たっぷりでした。でもこれを数カ月続けても全く症状は改善せず、医師は「あなたの症状は本当にしつこいわねー。」と首をかしげながら、更に足の裏用に貼り薬を追加しました。それでも効果は見られず、NHSの効かない医師の治療・漢方薬代がとても高額だったこともあり、結局私は治療を続けるのをあきらめました。

  その後、GPの薦めもあり、現代西洋医学に戻ることにしました。今度はロンドンのセント・トーマス病院という大きな病院の皮膚科(もともと独立した皮膚科専門病院だったセント・ジョージ病院が吸収されたもの)に紹介状を回してもらいました。ここでも掌蹠膿庖症は知られていませんでしたが、皮膚パッチ等のテストの後、初診で診てくれた医師にPUVA(紫外線)療法をするように言われ、「私はこの療法によって皮膚ガンになるかも知れない可能性があることを承知しています。」と書かれた書類にサインして、2週間に一回通いました。最初に紫外線を吸収しやすくする薬を入れたお湯に手足を漬け、その後PUVAを照射する器械に手足を入れるやり方です。医師から家ではステロイド軟こうと保湿クリームで対処し、夜には保湿剤を入れたお湯で足浴するように言われました。数カ月後、PUVA照射セッションの決められた回数が終わると、そこの大御所の医師と研修の医師達数人を交え、症状の改善具合のチェックがありました。私は症状が一向に変化していないことを伝えると、「PUVA以外の治療法としてはもうステロイド剤の内服しか無いが、その場合薬による肝臓への副作用の危険の方が治療効果の可能性よりもずっと高いので、やらない方がいい。現在ステロイド軟こうと保湿クリームで何とかしのいでいるのなら、あきらめて一生それで行きなさい。」と言われました。イギリスでも匙を投げられてしまった訳です。でももう慣れていたので、特にショックも感じませんでした。今から3年くらい前のことでした。

  その一年後、私達の転居に伴い別の場所のGP(前の所と同様何人かのGPがいる診療所です)がかかりつけの家庭医になりました。掌蹠膿庖症の症状は相変わらずひどく、そこの医師に栄養士に紹介状を回してくれないかと頼んでみました。もしかしたら食物アレルギーが関係しているかもと思ったからです。しかし医師は、もしこれが食物アレルギーによるものなら全身に出ないで手と足にだけ出るのはおかしいと断わられました。診療所の他の医師によるセカンド・オピニオンも同じで、結局今までよりも強力なステロイド軟こうと、足浴に使う強力な保湿剤を処方されました。

(3)まず母が前橋先生の元へ

  ちょうどその頃、ダンナのイギリス仕様のコンピュータでも日本語を使えるようにし、インターネットが日本語で検索できるようになりました。そしてある日、掌蹠膿庖症の掲示板を経由して、とうとうアキタコマチさんのホームページ、そして前橋先生のお名前に辿り着いたのです。

  私は千葉県の実家にいる母に国際電話をして「掌蹠膿庖症の名医が秋田にいるんだって。」と伝え、父にコンピュータの操作を助けてもらってアキタコマチさんのホームページを読んでみるように薦めました。

  実は母は掌蹠膿庖症性骨関節炎に苦しんでいたのです。母は10年程前に胸から肩にかけて突然の激痛に襲われ、それ以来原因不明のままずっと整形外科のお世話になりながら、時には夜も眠れない程の痛みと戦っていましたが、5年程前から、これまた原因不明のとても痒い湿疹が体中に(手の平と足の裏も含め)出るようになりました。最近になってようやくこの二つの症状が掌蹠膿庖症に関係していると判ったのです。

  ちなみに、私は掌蹠膿庖症を発症してから特にそれに由来すると思われる身体の痛みに苦しんだことがありませんでしたし、掌蹠膿庖症性骨関節炎の存在すら知りませんでした。1980?90年代初めの間に日本で私が診察してもらった多数の医師達に、掌蹠膿庖症性骨関節炎の症状について聞かれたり説明されたりしたことは一度もなかったのです。ですから母の胸の痛みが、私だけの持病と思っていた掌蹠膿庖症に関係しているとは思いもしなかったのです。今になって思えば、ここ2年程私もたまに胸元の骨の間や顎の付け根の辺りが痛むことがありましたが、痛み止めを飲む程の強い痛みでもなく、何となく放っておけば数時間後には消えてしまうような程度だったので余り気にとめていなかったのです。

  私は母に再度電話して、秋田に行って前橋先生に診てもらうよう薦めました。今まで一度も一人旅をしたことのない母は、私が10月に予定していた里帰りの時に、秋田に一緒に行くとためらっていました。ところがいよいよ胸の痛みが堪え難くなって来たのか、母はついに意を決して、6月に千葉から秋田まで一人で行き、前橋先生に診て頂いたのです。

(4)私も秋田へ

  2001年10月、私は母と共に秋田に向かい、前橋先生に診察して頂きました。20年にもわたって掌蹠膿庖症に苦しんで来た割に、私の胸の骨の変化は少しだけでした。この時点で前橋先生に診て頂くことができて、ラッキーだったと思います。欲を言えば、掌蹠膿庖症に深い理解を持ち、前橋先生の研究・治療法を熟知された医師に(もしいたとして)、もっと早く診てもらうことができていたら‥‥。私だけでなく、母も無駄に痛み、苦しまずに済んだことと思います。

  以来、母は千葉で、私はロンドンで、母娘二人、同じ治療を続けています。国際電話をする度に二人で病気の経過をあれやこれやとしゃべっています。特に私は掌蹠膿庖症との付き合いが20年と長いので、治療の効果が出るには時間がかかるだろうと最初から長丁場を覚悟しています。

  前橋先生、本当にありがとうございました。これからも母共々どうぞよろしくお願い致します。研究大好き、不屈の闘志(!?)をもち、自然体で患者さん思いの先生は、本当に私達、掌蹠膿庖症に苦しむ者達の宝です。看護婦さんや薬剤師さん、検査技師のみなさんを始め、国立療養所秋田病院の方々にも本当にお世話になりました。今後共どうぞよろしくお願い致します。そして、アキタコマチさんには何とお礼を申し上げればいいのでしょう。ホームページの読みやすく到れり尽くせりの内容にはとても感心しました。英語ヴァージョンは早速イギリス人のダンナに読ませました。

  最後に、アキタコマチさんのホームページに手紙を寄せられたり、アンケートに答えて下さっている患者さん達にもお礼を申し上げます。どなたかも書いていらっしゃいましたが、みなさんの体験談は本当に参考になり、励みになりました。秋田へ向かうのをためらっている人たちの背中をポンと、押してくれているのは間違いありません。長年にわたって心配をかけている私の日本の家族と、いつも様子を気遣ってくれるダンナとダンナの家族のためにも、これからもしっかりと治療を続けます。                                  

2001年12月末


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